書評──蜘蛛の糸

1918年に芥川龍之介が児童向け文芸雑誌『赤い鳥』に発表した掌編。ストーリーはシンプルで、生前の行いにより地獄へ落とされたカンタダを釈迦が見て、彼に一つだけ、蜘蛛を助けるという善行があったことを思い出し、蜘蛛の糸を垂らして救いを差し伸べる。カンタダは蜘蛛の糸を辿って這い上がっていくものの、眼下に罪人が我も我もと糸を辿って登ってくるのを見て喚いた刹那、糸が切れて地獄にまた落ちてしまうというもの。この三千字にも満たない短編の中で、地獄と極楽の明快な対比を織り込みながら、芥川はその顛末を「自分ばかり地獄からぬけ出そうとする、カンタダの無慈悲な心が、そうしてその心相当な罰をうけて、元の地獄へ落ちてしまったのが、御釈迦様の御目から見ると、浅間しく思召されたのでございましょう」と綴る。

書評──銀河鉄道の夜

宮沢賢治の逝去後、1934年に公開された長編童話。第1次稿から第4次稿まで7年ほど改稿が重ねられ、現在一般に知られるストーリーと最終稿は異なる場合がある。最大の違いはブルカニロ博士の存在で、第1次稿から第3次稿までは登場していたものの、第4次稿では彼のパートはすべてカットされた。

このブルカニロ博士は、ジョバンニに旅の秘密のいわば種明かしをする存在で、賢治がどのような意図をもってこの旅を描いていたのかを探る手がかりにはなる。だが、ファンタジーとして、そこは読者に委ねたほうが想像力の広がりが出ると判断したのだろう。この判断はおそらく、結果として正しかったのではないか。旅の理由がわからないという謎こそが、本作品が時を超え、読む者の心を捉えて離さない魅力の大きな部分を占めている。